横浜地方裁判所 平成6年(ワ)2078号 判決 1995年3月29日
主文
一 被告は、原告に対し、一〇四六万一七六四円及びこれに対する昭和六三年一一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、二八一九万九〇一八円及びこれに対する昭和六三年一一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、車道上に出てタクシーに衝突した被害者から、タクシー会社に対し、自賠法三条に基づき損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 事故の発生
日時 昭和六三年一一月一七日午後一一時四五分ころ
場所 神奈川県茅ケ崎市美住町一―三五
加害車両 普通乗用自動車(相模五五め九一七六)
運転者 訴外庭瀬克行(以下訴外庭瀬という。)
被害者 原告
態様 本件事故現場の車道中央付近にいた原告と、折から同所を通りかかつた訴外庭瀬運転の加害車両が衝突した。
2 結果
原告は、本件事故により骨盤骨折、右股関節中心性脱臼骨折、顔面挫創、歯牙損傷、神経因性膀胱の傷害を負つた(甲三、四、八~一二、一三~一八、弁論の全趣旨)。
3 被告の責任(争いがない。)
被告は、加害車両の保有者であり、運行供用者として自賠法三条により原告に生じた損害を賠償する責任がある。
4 原告は、右傷害の治療のため、左記病院に入・通院した(甲三、九、一一、一五~一八、二三~二八)。
国立横浜病院 昭和六三年一一月一八日から同月三〇日まで(入院一三日)
横須賀北部共済病院
外科 昭和六三年一一月三〇日から平成元年六月二八日まで(入院二一一日)
平成元年六月二九日から平成三年一二月一八日まで(通院・実日数六九日)
泌尿器科 平成元年九月六日から平成三年一二月一八日まで(通院・実日数四四日)
5 原告は、平成三年一二月一八日症状固定の診断を受け、本件事故による後遺症につき、自賠責調査事務所より、自賠法施行令二条別表の併合九級に相当するとの認定を受けた(甲三、四、三六、弁論の全趣旨)。
6 原告は、被告から本件交通事故の損害賠償の一部として合計四六四万九一四三円の支払を受けた他、自賠責保険金五七二万円、共済組合からの傷病手当一二二万五六四六円の各支払を受けた。
二 争点
1 原告の過失(被告の免責、過失相殺)
2 損害額
第三判断
一 原告の過失(免責、過失相殺)
1 証拠によれば次の事実が認められる。
(一) 本件事故現場は、茅ケ崎駅方面から浜竹方面に通じる市道上であり、その場所的状況は概ね別紙図面のとおりである。右市道は、直線で見通しが良く、車道幅員は八メートルで片側一車線、南側には白線によつて区別された副員一・五メートルの路側帯が設けられ、道路沿いに飲食店等商店が建ち並んでおり、北側にはガードパイプで区別された幅員一・五メートルの歩道が設けられ、歩道沿いに一般住宅が軒を連ねており、道路両側に約五〇メートルから六五メートル間隔で街路灯が設けられているうえ、道路南側の飲食店の室内灯、看板灯等が点灯しているため、夜間でも比較的明るい、なお、本件現場付近は、道路標識によつて最高速度四〇キロメートル、両側駐車禁止、追越しのための右側部分はみ出し禁止の規制がなされている(乙一、六)。
(二) 訴外庭瀬は、加害車両を運転して右市道を茅ケ崎方面から浜竹方面に向けて進行し、本件事故現場手前の交差点を通過するにあたり、前方左前に駐車車両(別紙図面、)があるうえ、対向車が通過していたこともあつて、一旦減速して時速約三〇キロメートルで中央線寄りに進行した後加速し始めたところ、右交差点停止線から約二三・七メートルのところで前方に原告を認めたため、急制動の措置を講じるとともに、右にハンドルを切つたが間に合わず、別紙図面<×>で原告に衝突した(乙一、証人庭瀬克行)。
(三) 原告は、本件事故前まで、本件事故現場南側の飲食店で事故当日午後六時ころから訴外望月孝邦(以下訴外望月という。)と飲酒した後、帰宅することになり、本件市道を茅ケ崎駅方面に向かうため、訴外望月が右飲食店前に駐車してあつた自動車を後退させるにあたり原告が誘導しようとして車道上に出たところ、別紙図面<×>で加害車両に衝突した(甲四〇、乙一、二、原告、弁論の全趣旨)。
2 ところで、原告は、右飲食店内で訴外望月と口論するなどして、店主から静かにするよう注意を受けこと、本件事故直後騒いで訴外庭瀬に押さえられたこと、他の飲食店で遅い昼食を取つた際にも飲酒していることなどの事情(乙五、七、証人庭瀬克行、原告、弁論の全趣旨)や、本件事故現場の場所的状況からすると、茅ケ崎駅方面に向かう訴外望月運転の自動車を誘導するため加害車両との衝突地点まで出る必要はなく、原告が本件事故現場の車両通行の状況等を合理的に判断して誘導をできる状態ではなかつたことが窮えることなどを総合すると、原告が本件事故当時相当程度に酔つていたことが推認できるのであるが、原告の酔いの程度と前記1認定の事実を併せ考えると、原告は、訴外望月運転の自動車の誘導のため本件事故現場に一時佇立していたというよりは、茅ケ崎駅方面の安全確認をすることなく本件市道中央線付近に至つた途端に加害車両に衝突したものと認められ、加害車両を運転する訴外庭瀬の方向からは、原告が加害車両直前に飛び出してきたのに近い状況があつたものと考えられる。本件事故は、原告の右過失を原因として発生したものというべきである。
しかし、他方、前記1認定の事実、ことに、原告が加害車両の走行する車線の対向車線側から本件事故現場に至つていること、加害車両が自車線上の駐車車両をよけるため中央線寄りを走行しているうえ、対向車両もあつたこと、本件事故現場付近には飲食店が点在していることなどからすると、訴外庭瀬においても、さらに前方を注視し、減速するなどして周囲の安全確認を行うことにより本件事故を避けられた可能性があり、訴外庭瀬の右安全確認を怠つた過失も本件事故発生の原因というべきである。
従つて、被告の免責の主張はこれを採用するとことができない。
また、右の事情を総合考慮すると、原告と訴外庭瀬の過失割合は、七・三と認めるのが相当である。
二 損害額
1 治療費 四七四万四四五〇円
原告の前記傷害の治療に要した治療費は左記のとおりである(甲一九の1、二原告の前記障害の治療に要した治療費は左記のとおりである(甲一九の1、二〇、二一、二二の1、2、二三~二七)。
国立横浜病院 三七万七九五〇円
小野田歯科医院 七万七一〇〇円
横須賀北部共済病院 一四七万四四〇〇円
原告は、本件事故による骨盤骨折の傷害により、右股関節部の関節裂隙の狭小化、臼蓋部の骨欠損等が著しく、このため将来人工関節置換術の施工を要する可能性が高い。右手術のための費用として二八一万五〇〇〇円が見積もられている(甲二八、二九、三〇の1、四一、原告、弁論の全趣旨)。
右再手術の費用は、本件事故と相当因果関係にある損害と認められる。
2 ベット等器具代 六三万二三七〇円
(甲三一、三二、三三の1、2、原告、弁論の全趣旨)
3 通院交通費 二五万七〇三〇円
原告の通院交通費 一八万八六四〇円
原告は、横須賀北共済病院までの交通費として、実通院日数七二日について片道一三一〇円を支出した
家族の通院交通費 六万八三九〇円
原告は、前記傷害の治療中家族の介護を要した。
(甲九、一〇、一二、三四の1~50、三五の1~14、弁論の全趣旨)
4 入院雑費 二六万八八〇〇円
原告の入院雑費としては、一日一二〇〇円が相当である。
入院期間二二四日
5 休業損害 六四三万四六八五円
原告は、本件事故当時国立横浜病院の看護婦であり、本件事故の前年の年収額は五五九万七三二九円であつたが、本件事故により症状固定の日まで七〇三日の休業を余儀なくされ、この間合計四三四万五八二〇円の一部支給を受けた(甲五、六、弁論の全趣旨)。
五五九万七三二九円÷三六五日=一万五三三五円(円末満切捨)
一万五三三五円×七〇三日=一〇七八万〇五〇五円
一〇七八万〇五〇五円-四三四万五八二〇円=六四三万四六八五円
6 逸失利益 二七〇三万二三五六円
原告は、前記後遺障害のため、歩行に常時松葉杖を必要とし、歩行や立ち仕事がままならず、稼働可能な業務内容が極めて限定されるうえ、夜勤や休日勤務ができなくなつたほか、看護婦として必要な研修の参加ができず、勤務や家事に多大な支障をきたしており、退職の不安も抱えている(甲四〇、原告、弁論の全趣旨)。
右のような状況のもとでは、原告は、前記症状固定の日(四三歳)から就労可能年齢である六七歳に達するまでの二四年間を通じてその労働能力の三五パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。
そして、原告の本件事故前の年収額は前記のとおり五五九万七三二九円であるから、これを基礎としてライプニツツ方式(ライプニツツ係数一三・七九八六)により六七歳までの二四年間の逸失利益を求めると、二七〇三万二三五六円となる。五五九万七三二九円×〇・三五×一三・七九八六=二七〇三万二三五六円
(円未満切捨)
7 慰謝料 八〇〇万円
本件事故の態様、原告の傷害、後遺障害の程度、治療の経過等本件に現れる一切の事情を考慮すると、本件事故による原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては、左記のとおり八〇〇万円が相当である。
入通院慰謝料 二五〇万円
後遺症慰謝料 五五〇万円
8 過失相殺
以上の損害合計四七三六万九六九一円から原告の過失割合七割を控除すると、一四二一万〇九〇七円となる(円未満切捨)。
9 損害の填補
過失相殺後の原告の損害額から前記既払分合計四六四万一四三円を控除すると、九五六万一七六四円となる。
弁護士費用 九〇万円
本件事故と相当因果関係にある弁護士費用としては、九〇万円が相当である。
三 以上によれば、原告の請求は、一〇四六万一七六四円及びこれに対する本件事故の日である昭和六三年一一月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 近藤ルミ子)
交通事故現場見取図
<省略>